少し前になってしまうが、スラッシャー松井氏と脚本についてのお話をしたことがある。彼は台本について、非情に強いこだわりを持って書いているらしい。当時、僕にそのことについて熱く語ってくれたことがある。
そこで本日は、劇団HOTTYうずらの魅力の一つでもある「脚本」が出来上がるまでの話を、スラッシャー松井氏に取材した内容も含め書いていこうと思う。
真辺「ここのチャーシューがすごく美味いんですよ」
どういう縁だか忘れたが、僕がスラッシャーさんを東川口にあるラーメン屋に連れて行ったときのことである。
この時は取材ではなく、ただ単に一緒にラーメンを食べに行くだけのはずであった。それが後に、うずら作品の誕生秘話を知るきっかけになるとは、この時は夢にも思わなかったのである。
スラ「たしかに美味い! ほどよく歯ごたえがあって、甘味もある。それでいてとろけるような舌ざわり。真辺さん美味しいお店知ってるんですね」
真辺「任せてくださいよ。僕、こう見えても結構ラーメンにはうるさいんですよ」
スラ「ラーメン屋の取材なんかもしてたりするんですか?」
真辺「こっちは趣味です。でもブログは書いてますけどね」
この時お互いが注文したのは、スラッシャーさんがチャーシュー麺、僕はつけ麺の大盛りであった。
僕らが食べているカウンター席の向こう側では、店員さんが額に汗しながらスープのダシを取り、麺を茹で、野菜をきざんでいる。
スラ「すごいですよね。この一杯のラーメンを作るのに色々な物を用意しなくちゃならない。用意したら今度は、それらがうまく調和するように微妙に調整していかなきゃならない」
真辺「まるで舞台を創っているようですね」
スラ「そうするとテーブルが舞台でラーメンが役者。店員さんが演出家・兼・脚本家ってところですかね?」
真辺「いや、役者はラーメンの中に入っている麺やスープ、野菜やチャーシューだと僕は思います。それらの素材の良さを引き出して、一つのラーメンとして完成させる。それこそ演劇みたいだと思いませんか?」
スラ「真辺さん、なかなか鋭いことを仰いますね」
真辺「そうでもないですよ。誰かさんの受け売りですから(笑)」
スラ「こうしてみると、色々なものが演劇に繋がってますよね。僕がうずらの台本を書いたときも、ちょっとしたきっかけで今の作品たちが出来上がっていったわけですし」
真辺「その話、是非聞きたいですね」
スラ「大した話じゃないですよ」
真辺「最初の“雑貨店うずら日記”はどうやって出来たんですか?」
スラ「真辺さんの押しには敵いませんね(笑) あの台本、と言うか旗揚げ公演は、本当は別の台本でやる予定だったんですよ」
真辺「別の台本?」
スラ「“マインドリンク”っていう題名の話を書いてたんですけど、結局おじゃんにしました」
真辺「“マインドリンク”? どんな話ですか?」
スラ「ある科学者が作った装置で心が入れ替わってしまう二人の女性の物語です。当初は男一人、女二人の予定で書いてました…てか、恥ずかしいんですけど(笑)」
真辺「何でですか(笑) それで、その話をやめて“雑貨店うずら日記”を書いたのはどういった経緯で?」
スラ「話が行き詰まっていたのと、当時“はねるのトビラ”って番組がやってた…あ、今もやってるか(笑) その番組の中のコントを見ていて思いついたんです」
真辺「お笑い番組からネタを仕入れたと」
スラ「そうなりますね」
真辺「二作目のタイムカプセルは?」
スラ「これもテレビ番組からですね。何の番組かは忘れましたけど、SMAPの香取慎吾が小学生たちと一緒にタイムカプセルを埋める企画をやっていて、それを見て書きました」
真辺「結構テレビからの情報が多いようですね」
スラ「そうですね。当時はあまりネットもやっていなかったし、大まかな情報はテレビからでしたね」
真辺「そうすると三作目の“THE ぬいぐるみ”もテレビから?」
スラ「いえ、これは特にこれといった情報源はないんですけど、しいて言えば映画の“ホームアローン”にインスパイアされたとでも言っておきましょうか(笑)」
真辺「なるほど。たしかに。二人の泥棒といい、悪いおばさんといい、どこかしらそんな雰囲気はありますね」
スラ「舞台でその雰囲気を出せていたかどうかは、また別の話ですけどね(笑)」
二人で和気藹々と談笑しているところに、この店特製の野菜餃子がやってきた。
冷めないうちにどうぞと、スラッシャーさんにすすめる。
スラ「それじゃ、いただきます」
真辺「スラッシャーさん、醤油つけないで食べるんですか?」
スラ「ええ、まぁ」
真辺「通ですね」
スラ「そんなんじゃないですよ。以前に別の店で餃子を食べたことがあって、そこの餃子は醤油をかけないでもすさまじく美味しかったんです。だから本当に美味しい餃子は、醤油なんかつけなくても美味しく食べられるものなんだって思いまして」
真辺「なるほどねえ…じゃあ醤油をかけるのは餃子の本来の味を損ねると」
スラ「でも、かけたらかけたで美味しいんですけどね」
真辺「何ですかそれ(汗)」
スラ「さっきのラーメンの話じゃないですけど、何においてもそうだと思いますよ。本当に良い物っていうのは、特別なフィルターを通さないでも輝いて見えるものだと思います」
そう言いながらラーメンをすするスラッシャーさん。
真辺「ちなみに四作目に当たる“怪盗イーグル”はどんなモチーフがあったんですか?」
スラ「アレは特にないですね。あえて上げるとするならば自分の作品である“雑貨店うずら日記”ですかね」
真辺「自身の作品がモチーフ」
スラ「もう一度雑貨店うずら日記のような台本を、別の視点から捉えた話を書いてみたかったんですよ。でもアレは劇団内外を問わず賛否両論ありましたからね」
真辺「そうですか。色々なところから情報を得て、台本に活かしているというわけですね」
スラ「まぁ…そんなところです(笑)」
その後、会計を済ませ店外へ出る。寒風吹きすさぶ夜空には満月が出ていた。
今回はただの食事会のはずだったが、劇団HOTTYうずらの台本が出来るまでと言う思いがけない秘話を聞くことが出来た。
帰り際にスラッシャーさんより次回作についての話を少し聞いたのだが、それはまた別の機会に話すことにしよう。
取材・フォトグラフ/真辺耕太郎 PR |