その電話は私にとってまさに寝耳に水、瓢箪から駒の出来事であった。
現在ちょっとだけ話題の、劇団HOTTYうずらの団長ことスラッシャー松井さんからこんな連絡を受けたのだ。
スラ「真辺さんお疲れ様です。スラッシャーです」
真辺「これはこれは、お疲れ様です。相変わらずハスキーボイスですね」
スラ「いきなり何ですか(笑)」
真辺「それはそうと、どうしたんですかこんな時間に?」
スラ「いえ、真辺さんさえよければ、今度ウチの劇団の稽古を見に来ませんかと思って」
真辺「いいんですか?」
スラ「もちろん」
今まで謎のベールに包まれていた劇団HOTTYうずらの稽古風景を取材できる。こんなレアな機会は滅多に無い。僕は喜び勇んで、一路劇団HOTTYうずらさんが稽古場にしている南浦和の公民館へと向かったのである。
公民館に到着するとスラッシャーさんが稽古場へと案内して下さった。場所は会議室。中に入るとすでにジャージに着替えた団員の方々が、机を端に寄せ、残りのスペースで柔軟体操やら発声練習、早口言葉などの基礎練習を行っていた。
真辺「すごい熱気ですね。まるでアマゾンだ」
スラ「ウチはネット販売はしてませんけどね」
真辺「いつもこういった基礎練を行ってるんですか?」
スラ「まぁ芝居にしても何にしても身体が資本ですからね。しっかりと鍛えておかないと」
僕とスラッシャーさんが話している横で、団員たち一同雑談も交えつつ終始和気藹々とした雰囲気で基礎練習が行われていた。
その後、奈良部さんの指示により台本読みが行われた。使った台本は劇団HOTTYうずら、旗揚げ公演の記念すべき台本「雑貨店うずら日記」。
台本を皆に手渡し配役を決めて行く。
この日は深澤貴志君、音響の伊藤千明君の二名が欠席しており、台本読みはスラッシャーさん奈良部さん丹野さん佐藤君の四名で行った。
いやはやこの台本読みを聞いて正直驚嘆したと言わざるを得ない。皆、演劇に関して一年以上のブランクがあるというのに、それを微塵も感じさせない軽快なテンポで台本の世界観を創り上げていくのである。台本が優れていることは言うまでもないが、それにつけても各々がそれぞれの力量を申し分なく発揮し、調和し、化学反
応を起こしている。台本読みを聞いているだけで自分の脳裏に、あたかも今そこで舞台が演じられているかのような情景が目に浮かぶのだ。ここまでできる役者…もとい、「劇団」はそうはないだろう。これもHOTTYうずらマジックの一つだと少々鳥肌が立つ思いであった。
スラ「何か飲みますか?」
真辺「いえ、お構いなく」
スラ「今日行きがけにジュース買ったの忘れて、南浦和のコンビニでもう一本ペットボトル買っちゃったんですよ。よければいかがですか?」
真辺「そうですか…ではお言葉に甘えさせていただきます」
台本読みが終わり十五分間の休憩をはさむ。
ちなみにスラッシャーさんからもらった飲み物はジンジャーエール。
スラ「いつもだったらランニングをしたり、パントマイムを取り入れた練習やダンスなんかもやったりするんですけど、今回はみんなのブランクを埋めるために少し昔の台本を読んでみようと思いまして」
真辺「ちっともブランクなんか感じませんでしたよ。むしろ今お金を払ってもいいくらいの出来でしたよ」
スラ「それは言い過ぎですよ(笑)」
真辺「いえいえ本当に。感動しました。こんなハイクオリティの稽古をしてたんですね」
スラ「このくらいは普通ですよ。中にはもっと厳しい稽古をしているところだってあるでしょうしね。ウチはぜんぜんヌルイ方ですよ」
謙遜するスラッシャーさん。
休憩が終わり、今度は配役を変更して再び台本読み。奈良部さんが役者たちにそれぞれダメを出して行く。うなずき、言われたことをメモする役者たち。ダメ出しに対する意見や自分なりの考えを話す者もいた。稽古場の中はまさに真剣そのものの空気に包まれていた。
今回は台本読みを行った後、残りの時間を利用し、舞台に立つに当たって必要な感性を鍛える特別なゲームをやった。これには僕も参加させてもらった。
詳しいゲームの内容はまた今度話すとして、劇団HOTTYうずらの団員たちと共に汗を流し、共に笑い、共に楽しんだこの時間は、僕にとってたくさんの大事なことを学ばせてくれた非情に有意義な時間となった。
稽古後、劇団の忘年会ということで一緒に行きませんか? と誘われたのだが、打ち上げと同様、僕は劇団の飲み会には極力参加しないのがポリシーである。丁重にお断りし、スラッシャーさんたち劇団HOTTYうずらの方たちと別れた。
「練習は嘘をつかない」。
野球をやっていた友人が言った言葉だ。駅に向かう道で、クリスマスのイルミネーションで飾った家々を見ながら思い出した。
劇団HOTTYうずらが最近少しばかり演劇界を賑わしている。その理由の一つとして脚本が優れていることは言うまでもないが、それにも増して役者をはじめ、音響、照明、制作スタッフ等、裏方の方々も含め劇団HOTTYうずらに関わる全ての人たちが、一丸となって良い物を創ろうとする意志があるからだ。現在の劇団HOTTYうずらの
地位は、団員一同の日々のたゆみない努力が実を結んだ結果なのである。
もうすぐ2008年である。
はてさて…どんな舞台になるのか、今からワクワクしてクリスマスどころではない(笑)
取材・フォトグラフ:真辺耕太郎
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